恋っていうのは、相手に焦がれて欲しい欲しいと思う、その情熱のことだと思う。
愛っていうのは、相手を自分の優しさで包んでしまいたいと思う、母性みたいなものだと思う。
まあどっちもボクの感覚上のものでしかないんだけど。
「レムレス。」
よく見知った背中に声をかける。
「あれ、アルルじゃないか。今日はどうしたの?」
「うん、ぷよ勝負してくれる人を探してるんだ。」
向こうとは自由に行き来できるようになったけど、それでもぷよ勝負は好きだからよくボクから持ちかける。
「それなら相手になろうか?ちょうど退屈してたところなんだ。」
キミが勝ったらチョコレートをあげちゃおうかな、負けたら残念賞でキャンディーだ。
うん、いいよ。笑う。笑顔。彼の周りは笑顔ばかりだ。
ボクには似合わない、だって今ボクを支配してるのは激情ばかりだもの。
『ぷよ勝負』なんて体のいい言い訳。本当に探してたのはキミなんだよ、正直に言ったことはないけれど。
背の高い彼と対峙するとますます思う。
彼の好きな甘い菓子みたいな声を聞くのは堪らない。
「欲しいな。」
思わず言葉がすべり落ちた。
「おや、お腹でも減ってたのかい?でもお菓子は勝負の後でね。」
「あはは、そうだね。」
降ってくるぷよを消して、消して。どんどんと積み上げていく作業はもう慣れたものだ。
思考するその隅で、もう一度「欲しいな」呟いた。
珍しい欲望の発露。
その微かな光の輝きを飲み込んでしまいたい。
あなたが持ってるの、それ頂戴な。まるで子供みたいなわがまま。欲しい欲しいとボクが言う。
キミをまるごと全部欲しい。キミが持っているものごと、全部。
連鎖。連鎖連鎖連鎖。感情の高ぶりのままにいくつもいくつも積み上げては消す。
そのうち、決壊したかのように彼の上に大量の透明なぷよが降り積もった。
「やったあ!」
幼い子みたいにはしゃいでみせる。嬉しいんだから仕方ない。ボクは生来素直な性質なんだ。
でもチョコレートはいらないな、どうしよう。
「負けちゃったね、しょうがないとっておきのチョコレートをあげちゃおう!」
「いらない。」
え、と笑みを崩さない彼の表情が固まった。
「その代わり、ね」
すういと笑みが表に出た。女の子って我侭ね、なんでも欲しがる悪い子ね。
ぎゅう、と彼の背中に手を回して抱き締めてみた。んん、甘いものばっかり食べてるくせに筋肉質とは羨ましい。
「その代わり、キミをちょうだい。」
「・・・なんで。」
心底不思議そうに彼が訊く。
珍しくぱちりと眼は開いて、その瞳の真ん中に笑顔のボクが映っている。
ボクは彼に恋していたけど、愛していたのは違う人。
ボクが欲しがるこの人が、どこかへ攫って行ってしまった愛する人は、きっとその銀と青で彩られた端正な顔を彼の前では綻ばせるのだろう。
この視線の先にあるのは憧憬でも羨望でも親愛でもなく、憎悪。
「ボクはキミのことが大好きなんだ。」
見開いた眼の中心で、キミが欲しくてキミを大嫌いなボクがうっそり哂った。
「・・・ね、心中ごっこしようか。」
そんで、あいつがキミとボクどっちの死をより悼んでくれるか、競争しよ?
大丈夫!この両手さえあれば、心中ごっこには事足りるから。