「シグってさー」
ぱくり、とケーキにかぶりつきながらなんでもないようにアミティは言った。
事実それはなんでもないことだった。
「虫、好きだよね」
「うん」
青い髪の少年は当然だと言わんばかりに間髪入れずこっくりと頷いた。
彼女もただ確認のために言っただけであり、彼が自分にどう返すか自体には頓着していないようで先程レムレスから貰ったケーキを崩しにかかっている。
「じゃあさ」
クリームのついた苺を咀嚼して飲み込んでやはり至って普通の口調で訊いた。並んで公園のベンチに座るシグの方を見もせずに。
「あたしが虫になったらシグはあたしのこと好きになってくれる?」
少年はそれにぼんやりと視線を向けた。
少女はいつも通りににこにこ笑って幸せそうにケーキを食べている。
「アミティは、ちょうちょだね」
「そうかな?」
「ちょうちょ、好きだよ」
「そうなんだ」
ごくりと喉が鳴って、すっかり空になった皿を見た。
口元についたクリームを拭いながら
「じゃあ、あたしは真っ赤なちょうになるよ」
楽しみにしててね、と笑った。
彼女が学校の屋上から飛び降りたのは次の日の朝だった。
自らの血でできた大きな羽を背中から生やしたその姿は、羽を広げた巨大なちょうのように見えた。
目元は潰れてひしゃげてさっぱりわからないが、口元は笑みの形に歪んでいる。
あちこち折れて曲がった手足は昆虫のそれを喚起させるようだった。
その日以来、少年は一度もちょうちょを見ていない。