男がいた。少女がいた。
少女は男を強い目で見つめている。
昔から何も変わらない、強く鮮烈な視線だ。
筋張った手を少女の首にかける。少女は何も言わなかった。口を開くこともしない。
男は嘲笑った。
ようやくだ、ようやくこの忌々しい女を殺す日が来たのだ!
首は細い。
よく日に焼けた健康的な肌の色。影の落ちる首が仄青い。
少女は何もしなかった。今から自分が殺されるというのに何も感じないそぶりで口を閉ざし、なすがまま。
ただ苛烈な色を滲ませた瞳ばかりが男を刺していた。
男は少女の首にかける手に徐々に力を込めていく。
流石に抵抗の色を見せ、細腕が男の腕を引き剥がそうとする。
がりりと血の気の抜けた爪が引っ掻き傷を残して、やがてぶらりと垂れさがった。
ごろり、と首が自重に耐えられずに折れ曲がる。
人間なんて血の詰まった皮袋だ、それを再確認して男はだらりとぶら下がる少女の死体を床に投げ捨てた。
どさりと重い音をさせて転がったそれにふと目を遣ると、魚の目のように濁った光彩と視線がかち合った。
飴色の瞳は濁っている。そのくせ焦点ばかりが男に向いていた。
あるわけがない、と男は首を振って死体から目を外す。
ぼそり、と背後から声がした。
何事かと再び地面に転がる少女を見れば、その姿はそのままにただきょろりとべっこう飴のような瞳だけをこちらに向けて、
おさない笑みを口元に刷いた。
瞳は変わらぬ鮮烈な色合いを取り戻している。
なるほどこれは夢なのだ。
息絶えた少女は蘇り、ただ罪悪感ばかりが募っていく。
なるほどこれは――夢、なのだ
「・・・・・・ああ」
微かに漏れた吐息が声になって零れた。
夢なんてさっさと覚めればいい。
男がいた。少女がいた。
男は地に伏せて目を見開いている。
少女は男の首に白い傷だらけの手を添えて、飴色の目玉で男を見下ろしていた。
白い手はゆっくりと力を加えていく。
白い首に影が落ちて、痣のように手の形だけ黒く落ち窪んでいく。
ひどく緩慢な動きだった。
不思議と抵抗はなかった。
恐ろしいとは感じなかった。
今にも自分の手が他人を害し死に至らしめようとしているにも関わらず、ボクは微塵も恐ろしさを感じていなかった。
ただ一点だけ、ちらと見た男の目が暗いことに悲しさを感じながら、手は首を握り潰し続けた。とっくに気道も潰れたであろう頃合いで、
ごきりと音がした。
白い喉が天を向いたまま、澱の沈んだような目玉が青く濁ったまま、男の死体はそこにあった。
「・・・夢、なんだ」
女の細腕で男の首を締めたところで振り払われて終わりだろう。ましてや骨を折るなんて不可能だ。
それなのに、手の中の白い首は、まるでクッキーのようにあっさりと音をたてて折れた。
「夢のくせに」
何故こんなにも生々しい。
「夢のくせに」
何故キミの死に顔は醜い。
「・・・夢の、くせに」
何故。
どうしてどうしてどうしてどうして
ぎちり、と奥歯が鳴る音がした。
白くなるほど握った拳の隙間から赤いものが零れるのが見えた。
「夢、なのに」
どうしてこんなにもおそろしいのだろう
「・・・・・・ああ」
微かに漏れた吐息が声になって零れた。
現実なんて、来なきゃいい。
真っ暗な闇夜にぼんやりと星が滲んで見えた。
やあ、と少女は暗闇に浮かびあがる見知った顔を見つけていい夜だね、と笑った。
男は戸惑ったように視線を彷徨わせて、何をしている、と訊いた。
つきがきれいだったから、と少女がついた見え見えの嘘に
奇偶だな、オレもだと男は笑った。
パ プ リ カ
(夢の話は、また後で)