放った魔導は違わず急所を貫き、相対する男に致命傷といってもいい傷をいくつもこしらえた。
それでも倒れない男に業を煮やした少女は「死んじゃえ」精一杯の罵声を吐いた。
ぶちん、という聞き覚えのあるような音がしたのは一拍遅れてのことだった。




きる




あ、という声もなく生命が零れ落ちて行った。
ぼたぼたと先程とか比べものにならない量の血液が零れて行く。
しぬんだ、自覚した途端背筋を冷たいものが滑り落ちた。
しぬんだ、このひと。ぼくのせいで。
ごろりと首のない体が傾いで床に突っ伏した。びしゃりという音と共に勢い跳ねた赤黒いそれに顔を顰めて、むっとした熱気に辟易したように首を振った。
「ゆる、さぬ・・・」
死んでない!宙に浮かぶ生首に少女は目を見開いた。
男は必死に生きようともがいている。
恐ろしいまでの執念でもって人形のような白いかんばせは醜悪に歪んでいた。
明確な敵意が眼差しに宿り、少女は改めて目の前の男は敵なのだと認識した。



死にたくないの一心で足掻いた攻撃は生首をただの肉塊に変えたらしい。
耳の奥で雨の音がして、返り血で赤く染まった自分の姿にようやく気がついた。
生温い音をたてて赤い水溜まりに落ちた首。
それに僅かな後悔の念を抱いて「あーあ」呟いた。
死んじゃった。
壊れたものは治らない。死んだものは還らない。
世界の真理に少女は初めて弓引きたくなって、その無意味さに溜息を吐いた。
行く手を阻んだ肉塊の末路に立ち会ったのが果たしてボクで本当によかったのかはわからない。
「ありがとう」
お陰でボクは今もここに立って息をしています。
純然たる取引の結果、ボクは生きることが出来ました。
丁度お金をやりとりするのによく似た感情をもってばらばらの肉塊に敬意を示した。
出来ることなら、キミも生きてるってのが何もかも丸く収まる結果だったのだけれど、仕方ないね。
肉塊の向こうから微かに風が吹いて、鉄臭い臭いばかりが地下に充満していった。
さて、今日も生きますか。
がらがら崩れた瓦礫の向こうには眩しいくらいの青空が。
肉塊を踏みつけて胸いっぱいに爽やかな空気を吸い込んだ。
それから思い出したように暗く日の差さない地下を振りかえり、そこにごろんと転がった血の気のない男の顔と目が合ったので
「ばいばい」
血だまりに沈む白い首に挨拶だけして、それでおしまい。
ああ、今日はいい天気。