くつくつ煮えるお鍋。分量通りに材料を入れて調味料を入れて味見をする。
「うん、美味しい!」
満足そうにアルルは微笑んで、最後の仕上げに彼女だけの隠し味を入れる。
いつもの、といってもまだこの隠し味を入れるようになってからそう経ってはいない。それでもアルルの舌には昔よりずっと自分の料理が美味しく感じられた。
たったこれだけでいいなんて、ボクって天才だよねーにこにこ笑いながらお鍋を掻き混ぜる、ほどよく煮込まれたそれを器に注いで、「シェゾー夕ご飯できたよー」まだソファに座って本を読んでいるのであろう恋人に声をかけた。
「今日はクりームシチューです!」
「カレーとルーが違うだけのような気がするんだが。」
「そんなこと言ってると食べさせてあげないもん!」
「悪かった悪かった。」
ほら降参、とやる気の感じられない仕草で両手を上にやるのを見て、うむよろしい、さー食べようと木製の椅子を引いて腰掛ける。
「いただきまーす!」
「・・・いただきます。」
それぞれが思い思いに挨拶。続いてかちゃかちゃという食器の触れあう音がして、しばらくはお互い無言。
先に言葉を発したのはシェゾの方だった。
「お、今日のは随分美味いな。腕、上がったか?」
「うん、ボク頑張ったんだよーそりゃもう血の出るような努力を・・・。」
「はいはい、血の滲むような努力な。」
「あ、今馬鹿にしたでしょーもう、本当なんだからね!」
少しだけ拗ねてみせる。もう、本当なのに。絶対信じてくれないんだろうなーと思いつつ顔をあげる、相手は澄まし顔。
なんだか釈然としない思いを抱えながら付き出されたおかわりの皿を受け取って台所へ。
まったく量だけは一人前に食べるくせにーぶつくさ呟きながら二杯目のシチューを目の前に置いてやる。
それを受け取りながら何のことはなしに彼女の指を見たシェゾは、増えた絆創膏に少しだけ目を眇めた。
彼女の指には古い物から新しい物まで様々な絆創膏。確かに血の出るような努力だと一人納得して、
「絆創膏。」
「え?」
「絆創膏、増えたな。」
「ああ、うん料理するとどうしてもねー。」
「ドジ。」
「ひどっ!」
先程のドジ発言にぎゃーぎゃー騒ぐアルルを放っておいて(なにせ彼女とこういったやりとりをするのは日常茶飯事である)シェゾはアルルお手製のシチューを堪能した。
お世辞抜きに美味しい、きっと一生懸命頑張ったのだろう、そう考えると自然と顔が緩む。
けれどそのシチューの奥に、ふと違和感を感じてシェゾはスプーンを止めた。
舌の奥で何か引っかかる味がする。
昔味わったことがあるような、けれどどこか違うような。
しばらくその味を確かめていたシェゾは、目の前の彼女に訊くのが手っ取り早いと口を開いた。
「そういやアルル、お前普段どんな調味料使ってるんだ?」
「普通だよ、お塩でしょ?胡椒でしょ?それに・・・」
彼女はふわりと幸せそうに笑んで一言、「隠し味」と答えた。
彼女の指の絆創膏は日々増えていく。
「これね、おまじないなの。ボクだけの秘密のおまじない。」
にこにこ笑う彼女の隠し味に気づいた者はまだいない。