青白い寝台の上に横たわった彼女は男をじっと見ていた。
今ここで彼女は男に無体を働かれていたというのに彼女の芯は揺らいでいないように、男には見えた。
半年くらい、前だっけ?
不意に彼女が口を開く。
いちばん、はじめの夜。
男は彼女が何故そんなことを言うのか全く分からなかった。
ボクね、キミのこと大好きだったんだよ。
気付いてた?
あ、とかう、とか言葉にならない声でボクを見る彼。
言葉に意味なんてないって教えてくれたのは誰だったけ。意地悪に笑ってみせると顔を顰めて俯かれた。
ね、選択肢をあげるよ。
ボクの望む答えを出してくれたらボクはキミを赦そうと思う。
けど、もしもボクの望まない答えを出しちゃったらボクはキミを赦せなくなる。
ちゃあんと考えてね、愛らしい唇が残酷に言葉を吐き出すのをじっと見ていた。
ひとつ、指を折って数える。
今後一切ボクに近づかない。
ふたつ、人差し指も頭を垂れる。
今ここでボクの魔力を奪って殺す。
みっつ、中指が重力に従って落ちる。
ボクを幸せにすると約束する。
ね、花が咲くように綻んで
どうする?
可愛らしく小首を傾げた。
どの条件も、とうてい男は呑むことが出来ない条件だった。
男は確かに彼女を愛していたし、彼女もまたそうだった。(それが歪に構成されていたとしても)
だって現に彼は彼女に何も与えてはいない。
彼女を殺すことも近づかないことも彼には出来ない相談であったし、彼女を幸せにしてやることも彼には不可能だと、知っていた。
たった一人に入れ込むなど彼の矜持が許さなかったこともあるが自分が相手では幸せとは程遠いということをよく分かっていた。
「選べないと言ったら?」
いつも通りの無表情で、ああやっぱりキミは変わらないんだね。
大好きだった蒼い目も銀の髪もなんだか憎らしくて。
これじゃあ百年の恋も冷めちゃうよ、枕元に手を伸ばして果物ナイフを手に取った。
ざくりと、振りかぶった刃物はキミよりよっぽど綺麗だと思った。
どうせキミは避ける気も防ぐ気もなかったんでしょ、だからすべて予定調和の籠の中。
ぼたぼた降ってくる真っ赤な涙を全身に受けながら彼女は自分の上に覆いかぶさった彼の耳元で囁いた。
キミを赦せなくなっちゃう。
ボクはキミの幸せをこの手に握ってるんだ、だからどれでもいい、選んでもらえればよかったんだけど。
駄目だったね、
動かない男の赤い体液の中で彼女は言う。
キミがボクを壊したあの日から、この結末は決まっていたのかもしれないね。
ひゅうひゅう鳴る喉で男は答える。
言葉でない声で。
ねえ知ってる?ここには三人いたんだよ。
ボクと、キミと、あとひとり。それを知ってたらキミはボクの望む答えをくれたかな?
男は最後に少しだけ目を見開いて、何かを言いたげに口を開いて、それでも裂かれた喉からは声すら出ない。
ばかなひと、小さく声が落ちて彼女はゆるく自分の腹を撫でる。
幸せだったのに、ボクは。
ばかなひとだね、ため息みたいに言葉を落として、彼女はもう暫くだけ二人分の呼吸をすることに決めた。