「久しぶり」
「・・・誰?」
きっとひどい間抜け面だったことだろう。きっとひどく眉間に皺を寄せていたことだろう。
それくらい、ボクにとっては非現実的な事象だったのだ。
ボクらの周囲はしろくあかるい。
息を吸い込むと陽炎の立つような真夏日の、湿った空気の匂いがした。

「もしかして忘れちゃった?そんなわけないだろう」
自信満々に自分のことを忘れる筈がないと眼前の人物は言い切る。
「忘れてはいないけど」
そう、忘れてはいない。黒髪で青い目の子供。いつも自信に溢れていた、尊大な態度の生意気な子供。
「久しぶりだね」
そう、確か名前は――
「カミュ」
「正解。本当に久しぶりだ、アルル」
大きくなったね、見違えたよ。そう笑って差し伸べてくる手を取ったものか少し逡巡してから、
「うん、会いたかった」
結局彼の視線に合わせて膝をつくだけにしたのだった。

目の前の子供は以前とさっぱり変わっていないようだった。
当り前か、と舌を出す。だって彼は幻で、実体なんてものは存在しちゃいない。
不思議なのは何故今頃になって、何故こんな場所に彼がいるのかということ。
「これって夢?」
「うん、当たり」
きっとボクは出来の悪い夢を見ているのだ。なんて懐古的な夢だろう、自己嫌悪に陥ることもよしとしない自分の精神構造に文句を言いたくなった。
膝を抱えて顔を埋めたボクをきょとんとした顔で眺めて
「なんだよ、会いたかったってさっき言ったくせに」
拗ねたように顔を背ける。
(可愛いな)思うだけで言葉にはしない。代わりに口から出たのは言い訳がましい単語の羅列だった。
「ごめん。自分の夢なんだって自覚したらさ、ボクは過去に逃避するような人間だったんだって思って。会いたかったのは本当だけど。でも現実で会いたかったな」
「幻とどうやって現実で会おうってのさ」
「でも夢だったらボクに都合のいいキミになっちゃう」
それは嫌だ。
厭味ったらしくて大人びていて意地悪で、でも優しいキミが好きなのに。
思い出は美化されていくから、思い出で形成された夢よりもそのまんまのキミに会いたかった。
カミュは少し驚いたように目を見開いている。
「意外だな、結構愛されてたんだ」
「うん、結構好きだったよ」
所謂吊り橋効果ってのもあったのかもしれないけど、子供心ながらに彼のことがぼんやり好きだった。
あんなにも短い時間であんなにも強く印象を残して消えていった人を、ボクはキミ以外に知らない。
「まあいいや。優しくないカミュに会えたから」
「なんだよそれ」
二人して苦笑いして、カミュが屈んでボクの手をとった。ボクのものより小さな手だった。
「さあ、カーニバルが始まるよ」
繋がれた手は冷たくて、ボクはそうっと目蓋を閉じる。
(やっぱり、ただの夢なんじゃないか)







夢から始まる≠夢で終わる
カーニバルが、始まるよ。