きゃらきゃら笑う可愛らしい声。
愛らしいくるりとしたまなこ。
ふわふわした茶色の髪も薔薇色の頬も、その全てを手の中に収めてしまいたい。
「お前がもっと小さければよかったのにな。」
なんとも言えない頓狂な顔でアルルはシェゾを見る。
「・・・いきなりどうしたの。熱でもある?」
「失礼な奴だな。お前がもっと小さかったなら誰にも見せずに閉じ込めておけたろうにと思っただけだ。」
「それは、体の大きさ?それとも存在の大きさ?」
「ああ、どちらかというと存在の大きさかな。」
彼女の周りには自然と人の輪が出来ていくから、彼女を独り占めしておきたい身としては断然面白くない。
はぁ、と溜息を吐く彼女は手元のカップをもてあそんで言った。
「まったく仕方ない人だよね、キミは。」
「仕方無いとはどういう意味だ。」
「そのまんまー。あれでしょ、絶対俺が死んだらお前はどうする?みたいなことを訊くタイプでしょ。」
「俺が死んだらお前はどうする?」
そのまま鸚鵡返しされるとは思っていなかったらしい。じと目で男のすました顔を見る。
「あーそうですか・・・まあいいや。」
くっとマグカップのミルクを飲み干してそうだなぁ、と宙を見る。
ミルクの付いた指を舐める舌がちらりと覗く。赤味を帯びた舌先が扇情的に見えた。
「ボクはね、もしシェゾが死んだらさっさと新しい恋でも見つけて幸せになっちゃおうかって思ってるんだ。」
普通、こういう質問がされたら「悲しい」だとか「一生キミのことを想って暮らすよ」だとかの言葉が出てくるもんじゃないのかとシェゾは少し不満に思いながら意趣返しとばかりにおおよそ恋人同士の会話に似つかわしくない言葉を吐き出した。
「もしそうなったらお前を呪いに行ってやるから覚悟してろ。」
「あはは、何言ってんの。シェゾが死ななきゃいいだけじゃないか。」
渾身の呪いの言葉をからりと笑い飛ばされて興を削がれる。
「ああ、そういうこと。」
「そうそう、そういうこと。」
「じゃあ」
「うん?」
「反対にお前が死んだらどうする。」
呪いに来てくれるか?
「それって普通ボクが訊く質問じゃない?」
先程より呆れたような声。知りたいと思ったのだから仕方ないだろう。
「別にいいだろ、どっちが訊いても。」
「もうっ、そうだなぁ・・・やっぱりキミが心配だから化けて出るかも。」
願いどおりの答えを返す彼女に気取られないよう安堵の息を吐きながら、それでも記憶は違う、昔彼女はこんなことを言わなかったと喚いた。
意識は彼女を肯定するが喉は勝手に否定を叫ぶ。
「違う。」
「へ?何が違うって言うのさ。」
「お前、前に死んだらそこまでだって言ってただろう。」
幽霊なんて、死んだらそこまでじゃないかと記憶の彼女がからから笑う。
「え、ああそういやそうだった。ごめんごめんすっかり忘れてたよ。」
まったく、何故忘れるんだとぶちぶち文句を言いながらもぐい、と引き寄せる。
わきゃ、と小さな可愛い声があがって「ちょっといきなりなにすんだよ」すぐさま文句が飛んでくる。
勝気な奴だと思いながらも抵抗されないのをいいことに柔らかい体温を楽しんだ。
彼女はといえば不意のことに顔を耳まで赤くしながらむくれている。
「なんだ嫌なのか。」
そう言って離そうとすれば慌てたようにじたばたとしてふるふる首を振った。
「や、じゃないけど・・・びっくりしたから。」
ぎゅっとしがみ付くのを可愛らしいと思いながらああこいつはいつまでも変わらないなと相好を崩した。
きっといつまでも変わらないのだろうと根拠もなしに思う。
そしてそれが外れているとは思わない。
「ね、シェゾはボクのこと好き?」
そこでようやく彼女を抱え込むようにして何も言わずに抱きしめてやる。
そうすれば彼女は笑うのだ、「シェゾ大好き。」誰にも見せることのない心からの笑顔で、安心しきったように笑うのだ。
男はそれを見てやっと安心し、再び彼女を逃がさないように腕の中に閉じ込めた。
彼女はといえばそんな男を仕方ないとでも言わんばかりに目を閉じて許容するばかりだった。