昔々あるところに、幸せな家族がありました。
おとうさんとおかあさんと息子ひとりの、ごくごく平凡な家族の物語。
名うての剣士だったおとうさんは息子に剣を与えました。
「お前が素晴らしい剣士になれるように」
腕のよい魔導士だったおかあさんは息子を学校に通わせました。
「お前が素晴らしい魔導士になれるように」
二人の願い通り息子はすくすく成長し、剣技においても魔導においても学校で一、二を争うほどの腕前になりました。
少年は大勢の友人と厳しく優しい教師に囲まれて、幸せな少年時代を過ごしていました。
しかし、そんな幸せな日々は長く続きませんでした。
修学旅行で訪れたラーナの遺跡で怪しげな場所に招かれ、そこで亡霊から少年は闇の継承者であると告げられてしまうのです。
当然反抗した少年は亡霊を打ち倒し遺跡からの脱出に成功します。
修学旅行から帰って来た少年を見て、父母は悲しそうに顔を伏せました。
二人には息子が一体何になったのか判ったからです。
闇の魔導士は悪の権化。
二人の息子は望む望まないに関わらず世界を恐怖に陥れるでしょう。
名うての剣士だったおとうさんは言いました。
「お前は素晴らしい剣士になっただろうに」
腕のよい魔導士だったおかあさんは言いました。
「お前は素晴らしい魔導士になっただろうに」
わたしたちの息子は死んでしまったとおかあさんは嘆き、闇は倒さねばならぬとおとうさんは剣を持ちました。
少年には何が何やら理解できません。
しかし剣を持った父が恐ろしくて、怯えておかあさんを見ました。
長い髪でおかあさんの顔は見えません。けれど手に短剣が握られているのがぎらりと反射して見えました。
声を荒げながら剣を振り上げる父の姿に怯えて少年も剣を握りました。
違わず透明な刃は父親の心の臓を貫き、続いて母の短剣をその手ごと打ち落としました。
右手を失くして震える母親の前に立った少年に残っていたのは衝動だけ。
息子は逞しい父親と優しい母親を斬り殺して、そのまま何処かへ行ってしまいました。
闇の魔導士となった少年は、今でもどこかで生きていると言います。



男が唄うように語ったのは古いおとぎ話だった。
母親がぐずる子供に語り聞かせるような、古く残酷な物語。
とうとうと語られるそれを最後まで聞いていた少女はおさないかんばせを笑みの形に歪めてただ一言だけ。
「昔話って残虐だね」
「それが全て事実だとしたら?」
事実だとしたら。
「それこそありふれた出来事さ」
子殺し親殺しなんて一体どれだけいるんだい。
少女は笑顔で切り捨てた。
「お前ならそう言うと思ったよ」
だから男は少女から離れられない。






I wish common
(結局それってキミの話でしょ)