ふふふふ、少女は嗤う。
心底嬉しそうに、心底楽しそうに。
裾の長いスカートをくるり翻しながら嘲笑う。
浅く水が溜まっているのだろう、足元でちゃぷちゃぷ水が跳ねた。
ぴしゃん、水鏡を踏みつけては少女は嗤う。
ダンスでも踊っているかのような軽やかなステップは、まるで水鏡に映る自分の像を踏み消そうとしているかのようだった。
やがて少女は大きくターンをして足を止める。
波紋の消えて行く水面は元の静けさを取り戻し、再びまっ平らな鏡面を生み出した。
鏡には少女が映っている。
鏡の自分ににっこり笑ってみせると、彼女は悲しそうに顔を顰めた。
「悔しい?」
ぽつり、少女は言う。
誰もいない空間で、空と地の境も見えない真っ暗闇の中で独り言のように言う。
「悲しい?」
顔には相変わらずの笑みが浮かんでいる。
茶色の髪が重力に従って揺れて、目にかかるのを白い指で除けた。
鏡の少女は全く同じ容姿をして、しかし真逆の表情でもって笑う少女を見つめた。
すういと手を伸ばす。まるで戯れのように。
水面に指先が触れて境界がぼやけて曖昧になった瞬間に鏡面が崩れた。
とぶん、と音がして体が沈む。足をつくことも出来ない深い深い海。
「こんなに泣いて、可哀想に」
鏡像であったはずの少女は、海の中でもってその存在を確かなものにしているようだった。
青く短いスカートを海水に揺らめかせ、今しがた自ら海へと沈んだ少女へと口を開いた。
「返して」
口の端から空気の泡がいくつもいくつも零れていく。
しかしその言葉はしっかりと鼓膜を震わせて届いた。
「ボクを返して」
「どうして?」
二人の少女は互いを見つめる。
涙の海にあって、それでも少女の眦は乾いていた。
「皆を傷つけないで」
「それは無理だよ」
「皆を騙さないで」
「それも無理だね」
ややあって、悲しそうに頭を垂れた少女が口を開いた。
「嫌い」
相対する彼女は、笑みを崩さないまま。
気落ちしたように項垂れる少女の髪を梳き、頬に触れ、籠の小鳥を愛でるように抱きよせた。
「嫌いでいいよ、嫌いになってよ」
そっと心臓に口づける。
「嫌い、出て行って、あんたなんて」
声は一つ、響くだけ。
「きらい・・・」
行き場を無くした涙が溢れて、ただ海面を押し上げた。








さてその他は、
狂気の沙汰