「ねーねーシェゾー。」
隣に座る少女が急に口を開いた。
なし崩しに恋人の座を奪い取ってから少し。恐らくこいつはまだオレのことを「友人」ぐらいにしか思っていないだろうことはありありと見て取れるが、それはおいおい変えていけばいい、と思っている。
そんな可愛い可愛い恋人の言葉を聞き逃すことなど出来ることではなく、「なんだ」と反射のように言葉が出た。
「ボクのこと、好き?」
くて、と頭が横に落ちた。
今更か、今更それを訊くのか。
相変わらず頭のネジが二、三本抜けているらしいとシェゾは頭を抱える。
だってあれだ、好きか嫌いかなんていうのは数日前にはっきりさせたばかりだ。主に態度で。
自分の身に降りかかったことを理解していなかったのかそれともただの確認なのか。さっぱりわからないが、答えないわけにもいかないと「好きに決まっている」と多少ぶっきらぼうなふりをした。
アルルはといえばへーとかふーんとか理解したようなしていないような声を出して「んじゃさー」となんでもないことのように言った。
「ボクはこないだ目出度くキミに食べられちゃったわけだけど、まだボク自身は答えが見つからないままなんだよね。ああいや好きだとは思うよ、多分。」
食われた、とか言うな。年頃の娘が。しかし事実は事実であるのだが。そしてそれを為したのが自分だというのがネックになって文句の言葉も出てこなかった。
曖昧すぎる感情を、ああやっぱりなといった心持で眺めた。今はまだそれでいい、くらいのつかず離れずなぼんやりとした距離。
しかし彼女の言葉は彼の予想を遙かに上回るもので、
「だからさー、キミがボクを死ぬまで大切にしてくれるっていうんなら、ボクも安心してキミを愛せるってものなんだ。」
それからすう、と息を吸い込んで
「ボクが年とって皺くちゃの婆さんになって歩く体力も起き上がる体力もなくなって寝たきりになっても痴呆が出てボケてしまったとしても変わらず大切にしてくれるって誓う?」
一息で言った。
少女は悲しいほどリアリストで青年は切ないほどロマンチストであったので、
「あ、考えやがったこの意気地なし。」





ハッピーエンドに興味はない
幸せも不幸せも、多分知らないままで年をとる