キミはボクに負ける。
絶対勝てない。ゼッタイ、ゼッタイ、ゼッタイ。
なんで、って。
そんな簡単なこともわからないんだもんなあ。馬鹿じゃないのかなって時々思う。あ、この前言ってみた。
訳がわからんって一蹴されたけど事実だし。
まあキミからすれば不可解なんでしょ、力はあるけど不安定なボク。なんで自分との戦いの最中にばっかり実力を発揮するのかって。
それがわかんないから、「馬鹿なんだよね」ついつい口に出してしまった。


いつも通りの勝負の後。いつも通りの結果に、ちょっとだけいつもと違う台詞。
「誰が馬鹿だ、誰が。」
埃だらけの服を叩く。
自分を馬鹿だとはこれっぽちも思っていないであろうシェゾは当然のように反論するも、反論されるということも予測済みであろうアルルにはこれっぽちもダメージを与えられない。
「あれ、キミのことだけど。ひょっとして馬鹿って意味も知らない?」
にかりと頬を上げて言う。
「知っとるわ!馬鹿にしているのか貴様は。」
「馬鹿にしてるんだよ、ボクは。」
あっさりと返ってくる言葉にぐうの音も出ないまま。
こんな小娘に馬鹿にされていいのかと自問自答するも今のところ解決策が見つかったことはない。
まあ結局のところは、彼女が笑った。
「ボクが勝っちゃうんだよねぇ」にやにやしたチェシャ猫のような笑いを浮かべるのをひっぱたいてやろうかと思わなくもない。
だがそれをすれば十中八九100倍になって帰ってくるのでぐっと堪える。負けたのは事実だからだ。
「さてはてそこの敗者」
「どうした勝者」
我ながらとてつもなく皮肉に満ちたやりとりをしていると思う。
虚しくならないかと訊かれたら今度こそ立ち直れない自信はある。幸いにしてこの場には自分と彼女以外は存在しなかったのでそうはならなかった。
「キミが負けるのはどうしてだと思う?」
ちょこんと目の前に佇んでにやにや笑いを崩さないのは本当にただの少女で、何故毎度毎度負けるのか、まったく理解できない。
「それを知っていたらとっくに勝っているだろう?」
せめて一矢報いてやろうと出来るだけ不敵に言ってやれば彼女は笑みをますます深めて「知っていても勝てないと思うなぁ」
苦虫を噛み潰したような表情の男とは真逆な笑みのまま
「よしよし、ならばヒントをあげよう」
俄に上機嫌になった少女はくるりとスカートの裾を翻して「キミはまだ生きている、それが答えだよ」と綺麗な笑顔で言った。
男にはまったくもってどういったことか理解できない。
けれどそれを理解しているかしていないかが自分と彼女の絶対的な差だということは理解出来たので、忌々しげに舌打ちをした。


窮鼠猫を噛むって言うじゃない、こちとら命かかってますから!