どうせ死んで土に還っていくのなら、無駄のないようにすべてぺろりと食べてはくれないだろうか。


「そうすれば、共にいられる。お前とオレは永遠にひとつでいられる。」
咀嚼されて消化されて細胞のひとつひとつにまで沁み渡るだろう、それはとても嬉しいことだ。
ぱちりと瞬きして言葉をごくりと呑み込む。
一拍の間がひどく長く感じて、乾いた舌が張り付いた。
あっは、と少女は小馬鹿にしたような笑みを浮かべて
「キミはロマンチックにもほどがあるねぇ。」
と彼の懇願を一蹴した。
「ボクがキミを食べるのは構わないよ、筋張ってて美味しくなさそうだけど。」
べろりと舌を出して言う。この年頃の少女らしくない物言いに眩暈がする。
ただねえ、きみ。
「キミをボクが食べたところで、永遠なんて約束できやしないよ。」
片手間の断定に男は困惑した。
「何故そう決めつける。」
仮に、だ。ねえもしも。キミが死んでしまって。ボクがキミの屍肉を貪ったとする。そうしたらキミはボクになるの?ねえ。

「ありえない。」

「ねえシェゾ、ボクは人間なんだよ。」
「知っている。」
「そう、人間。人間には新陳代謝っていうものがあってね、だいたいひと月もすれば体がそっくり新しいものに入れ替わるんだ。」
しってた?ことりと首を傾げるのに目を逸らして答える。そのくらい、知っている。
そう、とにこにこ目の前の少女は笑って
「だからキミは長くてもひと月しかボクでいられないわけなんだけど、いいの?」
永遠なんて約束できやしない。だってキミはただの蛋白質の塊になるんだから。
それでもいい、と男は言った。
少しの間でいい、お前とひとつであれるのならそれでいい。

ああ、本当に。馬鹿だ、馬鹿だ。
「断る」
「何故」
なおも食い下がる男に辟易したかのようにその襟首を掴み上げる。
ぐぅ、と小さく零れた息も無視した。
息がかかるほど近い距離。年頃の少女らしい可愛らしい唇が放つのは死刑宣告。
「そんな、自己満足につきあってやるほどボクは優しくない。」
真円を描いた飴色の瞳と青の瞳。互いの瞳しか映らないほど顔を寄せられて、男はぎりりと締められる気道を忘れたような気がした。
「死ぬのなら一人でやりなよ、寂しがり。・・・それが嫌なら、ボクと生きろ。」
鼈甲みたいな飴玉色した目は確かに生きていた。