あいしたい、思わず口が動いた。
けれど何がおかしいのか彼女はその言葉にくつくつと嗤って、
「うそつき。」
と言うのです。
きょる、と亜麻色の瞳がこちらを見据えて(飴玉みたいだと思って)
彼女は笑みの形に歪んだ唇を小さく開いて残酷な言葉を吐き出しました。
「あいしたい、なんて。心臓を抉りだしたい、の間違いじゃないの?」
ほら、ここ。
ついと白い手に触れてとって引き寄せて、そうして嗤いながら心臓の上にぺたりと置く。
とくとく動く心臓は特に感慨を覚えることもなく平常運行中。
「抉りだされたいのか?」
振り回される自分に苛々する。珍しく本当のことを言ったのに、はぐらかすように逃げる彼女にも。
どうして見えない、感情が見えない。いつもあんなに判り易いのに。
凶悪な声が世界に吸い込まれて消えた。
もう一度訊く、
「本当に心臓を抉りだされたいか?」
返って来たのは平坦な声。
「臆病者。」
ボクのことが怖いんだろう、臆病者め。
大きな目が銀と青をうっそりと見上げてにぃと口角をあげた。
「キミになら、いいよ。」
ねこみたいに目を細めて、彼女を害すことしかしてこなかった腕に頬をすり寄せて。
まるでそこが幸せな場所であるかのように嘯くのです。
「首を絞めて、呼吸を止めて、心臓を抉りだして、そうしたらぺろりと食べてしまいなよ。」
全部奪ってしまえばいいよ、キミが望むもの全部。
あいするのはそれからでも遅くないでしょう?
だから、ねえ。先ずは奪って。ボクを世界から奪ってみせて。
声は甘い。砂糖菓子よりも甘い甘い声は毒のよう。

噛みつくように口づけて、言われた通りに彼女を奪うことにした。
世界になんて渡さない。







心の臓まで残さず食べて
あなたが誰かをあいするのは、ボクには耐えがたいことなの
だからせめて、ボクがいなくなってから




心の臓まで喰らってやろう
お前が望むままにその心まで一緒に喰らい尽くしてやる
拒絶の言葉など受け付けてやらない