じりじり照りつける太陽に反抗するみたいにカーテンは白く、風にはその身を任せてひらひらそよぐ。
お陰で今ボクの家の中はかなり涼しい。
蒸されるような暑さに耐えかねて窓という窓を全開にした結果、非常に過ごし易い気温になったボクの部屋にはどうしてか真っ黒な服を着た馬鹿が居座っている。
ボクときたら、その馬鹿が喉が渇いたとかぬかしやがるもんですから台所でお湯を沸かしている。
ため息のひとつでも吐きたいところだけどそんなことしたって奴は出て行きやしないんだからあえて何も言わずに熱々のコーヒーを淹れてやる。もちろんブラックで。
カフェオレなんて知るもんか、ほんの少しの反抗心。
あーあ、こんなことになるならもう少し我慢でもなんでもしてせめて扉を開けておくのは止めておくべきだったかも。
勝手知ったる人の家とばかりにダイニングの椅子にふんぞり返ってる黒服の目の前にがっちゃんと音を立てながらカップを置く。1ミリでも伝われ、ボクの苛立ち。
おう、ありがとな。なんて。
本から全然顔をあげずに言われたところで嬉しくもなんともないんですケド。
誰だよいきなりやって来て土足でずかずか乗り込んできたの。ちょっと図々し過ぎるんじゃないの。
おまけにこっちを見ようともしやがらない。
まあなんて勝手な奴なんだろう。今に始まったことじゃないし、何を言っても応えないからもういいやって思うところもあるけどさ。
向かいに座ってガラスコップのミルクに口をつける。
蜂蜜を入れて少し温めたミルクは甘い。
さっきまでの苛立ちなんて忘れてそよそよそよぐ風に目を細める、心地いい暖かさにとろとろ溶けていきそう。
カーくんなんてもう眠りの世界に一直線。ハナちょうちんふくらませてソファーの上でごろごろしてる。
いいなー、カーくんみたいにボクもごろごろしていたいよ。

ひょい、て音がしそうなくらい前振りもなく手の中のミルクが取り上げられる。
カーくんの方ばかり向いていたボクは当然油断してて、
あれ?って空っぽになった手の中を見つめた。
一歩遅れて目を上げるといつの間にかカフェオレになってる(元)コーヒーと、少し量の減ったミルク。
「あ、ちょっと勝手に取らないでよ!」
「コーヒーなんて出すお前が悪い。」
「だからってボクのから取らなくてもいいじゃない、もー信じらんないシェゾさいってー。」
少し減ったミルクに口をつける。ああもう、甘いなあ。
「甘い。」
カップに口をつけて最初に出てきた言葉がそれだなんて。
「・・・勝手にやっといてそのうえその台詞?ボク怒るよ?」
溜息をつきながら呆れ顔を作ってみせて
ぐいっと残りのミルクを一気に飲んでしまう。
流しに持って行こうと腰を浮かして、
ぺろ。
「やっぱり、甘い。」
ほっぺ、今、舐め・・・っ
かーっと顔に熱が昇ってく。
「っ、じゅげむ!」
恥ずかしさと照れ隠しで思わず爆破呪文。
当然のように壁には大穴、目の前の黒い奴もふっとんだ。
衝撃で起きたカーくんに目で謝ってからちょっとだけ渋面、ああもう!
大破した壁はあいつに直してもらおう、元々はあいつのせいだし。
じゅげむ一発でくたばるような奴じゃないから、そのうち怒りながら戻って来て勝負を仕掛けてくるんだろう。そしたらまたいつもみたいなやりとりをして、またボクに負けるんだ。
今は、それだけでいいや。

まだ、そのままでいいや。