ぶぅ・・・ん、低い電気の音がする。
ちかちか光る箱。
夜も明けきらないうっすらとした暗闇の中に響く可愛らしい声。
「・・・どうした。」
もそ、布団の中で彼が身じろぎする気配がした。
「あ、起こしちゃった?」
ごめんね、気の入っていない声でひらりと手が振られる。
テレビの中で踊るのは可愛らしい女の子達が協力して悪を倒す、なんとも使い古されたシナリオのカラフルなアニメ。
寝ぼけ眼の銀髪の男はぼうっと光を発する画面を眺めて脇の彼女と見比べる。似合わない、そう思った。
その不躾とも取れる視線を感じながら彼女はカラフルな絵を見続けている。
引っかけただけの白いシャツから覗く細い腕は光に照らされてやけに不健康そうな色。
「お前も女の子だったんだな。」
「んー、これ?別に見たくはないんだけどね。」
その割には彼女の目線はしっかりテレビに釘付けになっている。
「ただ、いいなぁって。思ったの。」
「魔法のことか?」
「それは別に。魔法も魔導も使えなくたって惜しくも何ともないし。」
ちかちかちかちか、くるくる変わる場面。
箱の中の少女達は笑う。綺麗に素敵に笑う。夢の詰まった笑顔だな、と男はぼんやり考えた。
どれくらいそうしていたろうか。モノトーンの室内には似つかわしくない鮮やかな色彩を持つ箱の電源をぶちんと引っこ抜いた彼女は、ばふ、マットレスに突っ伏してもう一度、「いいなぁって思ったんだ。テレビの中のあの子たちは誰にも否定されないんだもの。」くぐもった声で言った。
仲間がいて、友人がいて、両親がいて、兄弟がいて。誰もあの子たちを否定しない。最後に待つのはハッピーエンドばかりで、途中経過をすっとばしてもきっと変わらない。
彼女の声が虚ろに彷徨って「ボクらもそうだったらよかったのに。」細い声が気丈に震えた。
昔。どれくらいかは知らないけれど、昔。ボクらは強い力を持っていた。
テレビのあの子たちと同じ、特別な力。
強い力は、それだけで嫌悪と敬遠を呼び起こす。
確かに自分たちの周囲にはそういう人はほとんどいなかったけど、ゼロって訳じゃない。侮蔑の目で見られたこともあった。謂れもなく妬まれたこともあった。世界の悪意はいつだって異端に集まる。
次第次第に人を避けて暮らしていくようになったのは、ある意味当然。
そんなことないって分かっている今でも、ボクらは世界の隅っこで小さくなって生きている。
「少し言葉を交わしただけで全部分かりあえるなんて、理想郷みたいだね。」
「フィクションってのはそういうものだろ。」
乾いた声が頬を撫でて、ぽたりと涙みたいな言葉が零れた。
「ああ―――羨ましいな。」
それに男は何も言わなかった。答えを持っていなかった。
仕方なく、代わりに彼女の栗色の髪を柔らかく手で梳いてやる。
彼女はそれに心地よさそうに息を吐き、猫のように目を細めてぎゅ、と男に縋りついた。