知っていたんだ
、彼女が言った。



さやさやと風に髪が揺れて、瞳はしっかりここを見つめている。
なにを?尋ねた声は自分のものとは思えないくらい空っぽだった。
彼女はいつまでも変わらないままだった。あたしが成長して背が伸びて、彼女と出会ったときの年齢になっても、彼女の年齢は変わらないままだった。
金茶の瞳は変わらず輝いて、亜麻色の髪は少しだけ伸びた。
けれど彼女の身長はほんの少しだって変わらないし年を重ねた印象もさっぱり受けない。



どうやったってココはボクと相容れないってことぐらい。



口の端を少し歪めて彼女は言う。ねえ、あなた何を見ているの。
俯いて陰になった目元のせいで表情が判らない。泣いているの、笑っているの。
夕暮れの公園では皆が騒いでいるけれど、この場所だけ切り取られたみたい。
あたしの背はもう彼女を追い越してしまった。魔法はまだ勉強中だけど、以前よりずっと上手く使えるようになった。
シグもぼうっとしているところは変わらないけれど、実力はしっかりついてるみたい。
ラフィーナは下ろしていた髪を結い上げて毎日毎日より美しく強くなろうと努力している。
クルークは図書館に通いつめて知識をひたすら詰め込んで、それに呼応するように力も上がっていった。封印の本を手放すつもりはないらしいけど。
リデルは大きく綺麗になった。亜人としての自分を誇るように角を隠すこともなくなった。
でも彼女だけが変わらない。



ボクは変わらないよ、変われない。



寂しそうに彼女が笑った。アコール先生は向こうとこちらの時間の進み方が違うからなんじゃないのかって言ってた、けど
詳しいことは判らないらしい。
なんだか彼女だけが時間に置いて行かれてるような感覚になる。



アルルも一緒に生きてるのに、どうしてなんだろうね。




その言葉に
ごめんね、哂う彼女が分からなくてただ首を傾げた。



それがウンメイってやつ?



昔あの大きな犬を従えていた少女が言っていたことを思い出して口にしてみる。人が抗えないものをウンメイと呼ぶんだと彼女は言っていた。
訊いてみると彼女は少し驚いて、
そうかもねとだけ答えた。



そんなの嫌だよ、昔がどうあれアルルは今ここで生きてるんだから!
運命だってきっと皆と力を合わせれば乗り越えられるでしょう?
あたしはアルルの運命を打ち砕いてみせるよ!




彼女は少し眩しそうに目を眇めて、
ありがとうと微かに笑った。
ようやく彼女が笑ったのが嬉しくてこっちも笑顔になった。



大丈夫、運命になんて負けないんだから!



そう笑ったら
答えはないけれどただ微笑み返された。
少しだけ寂しそうな笑みを見て、もしかしたら彼女は運命が嫌いなのかもしれない
そんな風に思った。
彼女の手を取る。暖かい、優しい手。
ここにいるんだからそんな悲しい顔はいらないんだよってあなたに伝えたい。
言葉にしたら彼女が泣いてしまいそうだったから
ただ笑顔で手を繋いだ。




彼女を悲しませる運命が、なくなってしまいますように。