「お前が欲しい!」
「ウルサイこの変態ーっ!」
天高く緑の美しい快晴の空に、地上からの白煙が立ち上ったのは言うまでもないことだった。


お決まりの台詞にお決まりの攻撃。最終的に辿りつくのはお決まりの結末でしかない。
「えへへ、ボクの勝ちっ!」
にこにこ笑って覗きこむ姿に眩暈を覚えて目蓋を閉じた。
「疲れた。寝る。」
「そんなこと言わないでよ、折角ボクが勝ったのに。」
何が折角なのか。開きかけた口は一言も発することなく閉ざされてしまった。
目を閉じて不貞寝を決め込もうとする男の態度が気に食わなかったのか少女は眉根を寄せてむむうと唸った。
反応が芳しくないのがつまらない。
けれど露骨に寂しがるのも矜持が許さない。
ややあっておそるおそるといった調子で男の頭上から声がかかった。
「・・・ね、ご飯食べてく?」
「はい」か「いいえ」のそれだけの言葉を口にするのには十分すぎるほどたっぷり時間を使ってようやく
「そうさせてもらおう。」
顔には不承不承という表情が刻まれているけれど。
「じゃあ決まり!ボク材料買ってくるよ。」
「この前大量に買い込んでなかったか?」
「カーくんにかかればあのくらいすぐなくなっちゃうもん。」
ああ、と納得する。
「荷物持ちくらいなら、やってやろうか。」
その言葉に喜色を呈した少女は「うん!」と力いっぱい頷いて
「ほらほら、体起こして!早く行こうよ」
先程の大人しさは何処へやら元気のありすぎる様子で飛び跳ねた。
迂闊に返事をするんじゃなかった、後悔するも後の祭り。さんざんあちこちの店に連れまわされて買い物が終わった時には既に日は暮れかけていた。
大量の荷物を運んだせいで体中悲鳴をあげている。カレーの材料ばかりではあるが、それでも量が半端ではない。いつもこんな量持ち運んでいるのかと思うと、いっそ感心してしまう。
すぐ作るからね、という言葉に甘えて簡素な造りの椅子に腰かけた。
黄色い兎は今日も変わらず何が楽しいのか踊っている。
前回のことを考慮してちょっかいを出さずに静観していると飽きたかのように台所へ跳ねていってしまった。
「出来上がったよー!もう、頬杖ついてないで」
ごとん、音を立てて置かれる大皿からは湯気が立っていて、カレー特有の刺激臭がつんと鼻をついた。
いただきますもなおざりに食卓を囲む。食器が触れ合う音がして、しばらく。ためらいがちに少女は口を開いた。
「美味しい?」
「まあまあ。」
「もうっ、素直に美味しいって言えばいいのにね、カーくん。」
「ぐー!」
いつもより少しだけ、近い距離がくすぐったく感じた。