ぽかぽか天気の陽光の下、真っ暗な人影が街中を歩いているのを見かけたアルルは、そのあまりにも似つかわしくない格好に思わず吹き出しかけた。
こんな暑い日に黒い服だなんて!熱中症患者希望でもしてるのかな。
とてとて駆けて背中をぽんと叩く。予想通り振り向いたシェゾが思ったよりも無反応なのにおや、と拍子ぬけしてしまった。
「こんなところでどうしたの?」
「なんだアルルか。」
「ちょっと、なんだはないでしょ失礼だなキミは!」
横に並んで下から彼の顔を覗き込む。・・・特に不調ではないみたいだけど、変なの。
「今日は勝負しないの?」
「気分じゃない。」
気分で勝負ふっかけられてたのかと思うとなんだか微妙な感じ。ボクとの勝負ははそのてーどですかって問い詰めたい気持ちを押さえて本来の目的を思い出す。
ぐい、とマントを引っ張って彼がどこかに行かないよう足止めする。
「ちょうどいいや手伝ってよ。これからももものタイムセールなんだけどさ、カレールーがおひとり様一箱ずつなんだって。キミがいたら二箱買えるじゃん。」
「何故オレが・・・。」
「いーからいーから!いつも勝負ふっかけてくる迷惑料ってことで協力してください!」
ね?
にっこり笑ってやればつい、とそっぽを向かれる。むむ、これには流石のボクもちょっとイラっとしたぞ。
「カーバンクルでも連れてくればいい。」
「カーくんがいたらお店の食材無くなっちゃうもん、だから買い物はいつもボクだけなんですー。」
「じゃあ他の友達にでも頼めば・・・。」
「いーから来い!」
まだ何か言いたそうにしているけれど彼の意思は完全無視。袖を引っ張って引き摺るようにして歩いた。
いつもいつもボクは彼の言動に迷惑を被っているんだからこれくらいは当然。
文句が飛んでこないのをいいことにそのままお店へ一直線!

がさがさと音を立てる袋の中には大量の根野菜と肉、それに二箱のカレールー。
「買い込み過ぎだろ・・・。」
あきれ顔で荷物を持つシェゾも気にならない。これで暫くはカーくんも大満足してくれるだろう。
足取り軽くボクの家へ向かう。途中で帰ろうとしたシェゾに「オンナノコにこんな大荷物持たせる気?」と言ったらば「誰がオンナノコだ」と憎まれ口を叩かれたけど無視。その代わり「荷物落としたり放り出したりしたら問答無用でじゅげむだからね」と釘を刺しておいた。
家の前に到着して、ようやく重い荷物から解放される。
あー重かった、後ろの彼にも御苦労さま、と声をかける。憮然とした顔で突っ立ている彼から大きな紙袋を受け取って、そうだ、と提案する。
「助かったよ、お礼にカレー食べてく?今から作るから。」
「・・・別にいい。」
不機嫌そうではないが、どこか戸惑ったようなその顔に
ヘンなやつ、と後姿を見送った。