昼飯を食いに来た、と目の前の男が言うものだから、少女は呆れ果てて
「帰れ」
と言った。
ここ数日お馴染みとなった光景である。玄関先でぎゃんぎゃんと言い争う二人は、じきにアルルが折れて招き入れることが決まっていた。
「ほら、手土産だ」とどさりと手に置かれたのはいくらかの林檎と、蜜柑と、その他少しの果実。アルルは大きく大きく溜息を吐くことで不服の意を示してから、「どーぞ」と投げやりに言った。「どーも」とシェゾも気にした様子もなくずかずか入り込んだ。
相変わらず昼飯はカレーである。それをカーバクルと一緒にぺろりと悪びれることもなく完食してしまう。
「御馳走様」
いつの間にか入り浸るようになっていたこの男の分の食器も一緒に下げながらアルルは本日数度目の溜息を吐いた。
ああそういえば、とシェゾは肘を吐いてカーバンクルが林檎を丸飲みしているのを眺めながらシェゾは何かを思いついたように言った。
「世界には自分と同じ顔をした人間が三人いるんだと」
そう彼は言った。ふうん、と少女は返して、モンスターとかじゃなくて?と問いかけた。
「それなら三人どころじゃなく見てるだろ」
「そういやそうだね」
生まれた時から全く同じ顔をした人間。それが世界にはあと三人もいるのだ。世界は広いね、と少女が言えば、本当だな、と彼も返した。
同じ顔が三人。自分を合わせて四人。
そこまで考えて、あ、と何かに思い至った。また何か碌でもないことを思いついたな、という顔でシェゾがアルルを見る。その予想は大概外れていない。
「ボク、どうしてオワニモが封印されたのかわかっちゃった」
シェゾはさっぱり訳がわからないという顔をしている。封印されていたとはいえあれは使い道のない呪文。今や娯楽にしか使われていない呪文。
だって、だってだよ?
「時空の彼方に飛ばせるのは『ぷよぷよ』だけとは限らないもんね」
どんな人間でもどんなモンスターでも、同じ種族で同じ顔さえしたものが四匹以上集まれば条件は満たされる。それがどんなに強い力を持っていようとどんなに弱い者であろうと関係なく。意味に至ったシェゾは溜息を落としてから、「最悪だな、お前」と言った。






ドッペルゲンガーでは死なない