少女のおさない肢体には赤と青のまだらが模様を作っていた。
醜く引き攣れた皮膚も、赤黒く膨らんだ瘡蓋も、紫に色を変えた打撲痕も、幾重にも巻きつけられた白い包帯もどれも少女の姿を痛々しく見せていた。
少女は床に転がったまま濁った光彩で宙を見ている。白と青のコントラストが影を作るように少女の上にかかって、それにぱちりと瞬きをした。
「いつまで寝転がっているつもりだ、アルル」
男の声は冷たい。白い髪と青い目をした男だった。
少女はのろのろと起きあがる。傷口からぱたぱた血が滴った。破けた皮膚から血が落ちていく。
床にぺたんと座りこんで、「おはようシェゾ」と傷だらけの顔でにこりと笑った。
「今日も外はいい天気かな?」
少女の目は暗く濁っている。数日前まで「今日も外はいい天気だね」だった挨拶に顔を顰めながら男は「ああ」と答えた。
「そりゃよかった」
少女は鼻歌でも歌いだしそうなほどに上機嫌である。
少女の手に握られたナイフには赤黒い染みがこびりついている。そっと取り上げようと手を伸ばす。「だーめ」うふふと少女は笑って、ナイフを隠した。
「アルル!」
無理矢理に右腕を晒そうと引っ張る。嫌嫌とアルルは首を振った。ぐちゅ、嫌な音がする。少女の右腕を引っ張る度に音はする。左腕に当てられたナイフが右手ごと引っ張られて、真横に一本、新しい赤い線を引いていた。
「オレが憎いのか」
男は言う。
「オレを恨んでいるのか」
男は問う。
少女は白い包帯を真っ赤に染めながら「ああ、だめになっちゃった」言って立ちあがった。
血の気のない顔は白い。ゆらゆらと覚束ない足取りでいるアルルはまるで幽鬼のようだった。
キミは愚かだなあ、アルルは笑う。
流れた血で赤く染まった包帯をむしり取って、まだ塞がっていない傷が再び口を開けるのをシェゾはただ見ていた。
この少女はいつの間にか狂ってしまったのだ。それがいつからかは男の預かり知らぬことであったけれども。
「いつも言ってるじゃん、ボクはシェゾが大好きなだけなんですー」
ぎらぎらナイフの刃が銀色に光った。少女は手にナイフを持っている。振り上げる。振り下ろそうとするのを男は止めた。
今にも左腕を切りつけようとしている少女の右腕をとる。力任せにその手からナイフを引き剥がせば、非難の声が上がった。
「なにすんのさ」
少し不服そうに唇を尖らせるその姿はただの少女そのもので、ひどい眩暈に襲われそうだった。
じゃあいいよ、刃物なんていらないし。
ボクはキミを愛しているのだと高らかに謳いあげた少女は自分の細い首に手をかけた。





Acta est fabula
(芝居は終わりだ、幕を引け!)