アルルから見たシェゾは、なんだろう。よくわからない人だ。
よくわからないから、すごくこわい。こわいこわいと思って彼に触れないでいる。家に引き籠って顔を合わせないようにする。そういう時に限って彼は気紛れにアルルを訪ねてくる。
そうして気紛れにボクの相手をする。そうすると怖いって感情がするする解けてってなんてことないような気分になる。
けれど彼が帰っていく頃にはまた彼がよくわからなくなる。またこわくなる。こわいことが嫌だから、時々自分から彼を誘うことにする。
彼のことをこわくない時間が増えれば何か変わると思ったけれど、相変わらず彼はこわいままだった。
いとしい、とは思わない。にくい、とも思わない。じゃあ何がしたいのとボクに訊いて、なんにもとボクは答える。
なんにもないから傍にいる。
他の誰が見ても狂っているようなこの感情は、残念ながらアルルとシェゾの間では正常だった。
むしろアルルにとっては世界が異常だと言えるのかもしれない。
愛情だとか恋情だとかを抱えながらその人と一緒にいるということが、アルルの目には恐ろしいほど難しく映るのだ。
知らない人と、どうでもいい人と一緒にいるのはひどく楽だ。
何の感情も抱かないまま話すことほど反射に近いものもないだろう。
相手が望んでいるんだろうなあって態度をとるのはそんなに難しくない。特に付き合いの浅い相手なんかは簡単な反応しか望まないし、少し正解からずれてたって気にされない。勿論万能じゃないから外すこともあるけど。
正答率八割、と呟いた。
怒りもしない。
悲しみもしない。
楽しみもしない。
喜びもしない。
ただ生きていくために不必要なありとあらゆる感情を、アルルはおそろしいと感じて捨ててしまいたくなる。
けれど捨てることもおそろしい。
アルルはおそろしいことが心の底から嫌だった。それは大抵死へと繋がっている感情だったので。
アルルはこの世のありとあらゆる生物と同様、何より自分の死が嫌いだった。
(他人の死はどうだと誰かに訊かれたことがある。正直あまり興味はなかったので、さあと答えると溜息を吐かれたように思う)
シェゾは時々アルルを気味が悪いといった目で見る。まるで人間ではないようなものを見るようにアルルを見る。特に異存はないので放っておくと、ますます不可思議だと言わんばかりに顔を顰める。
興味の方向が外側を向いているから、彼はそういう顔をする。
「化け物」
彼はそう形容する。お前はまるで化け物なのだと。
指をさして、冷めた目で、軽蔑したような声で、化け物と罵る。
アルルはそれをにこやかに笑う以外の方法でもって応えたことがない。
「シェゾに好かれようと嫌われようと、ボクはどうでもいいんだ」
だって、と言葉を紡ぐアルルは変わらず皆から愛される笑顔のままである。
「シェゾのことなんて、どうでもいいんだもの」
シェゾといることは他の誰と過ごすことよりも楽だ。彼になんの感情も抱いていないから、彼と仲がいい振りをする。
一緒に過ごして、一緒に街を歩いて。
けれどやっぱり何かを感じることもない。もっとも、何かを感じたらその時点で彼とさよならをするのだけれど。
百合の花が綺麗だった日、鋏でその花の首を切り落とす度にシェゾは不審な目をした。
百合の黄色い花粉がテーブルクロスにほたほた落ちて、それを好ましいと思うのはおかしいのだろうか。
シェゾがこちらをじいと見ている。訊かれることは予想がついているので、素知らぬ振りで「どうしたの」と笑ってみせた。
「お前の心臓には、何が詰まっているんだろうな」
あまりに滑稽な質問に、ボクは声をたてて笑った。手元が狂って鋏が手を滑り落ちる。指に細く長く線が引かれて、赤い血が滴った。
「ボクの心臓にはね、






ブリキのきこり
(おがくずが詰まっているんだよ)